歯科ブログ

外傷で歯が抜けちゃった時どうする?

2020.05.31

お口をぶつけて歯に外傷を負うケースは、意外と多いものです。
外傷の原因として、小さなお子さんや体の弱った高齢者の転倒があげられます。
また、車の事故やスポーツ、喧嘩などでも発生します。

歯の外傷は「歯の脱臼」と「歯の破折」に大別されますが、今回は歯の脱臼について取り上げます。

歯の脱臼には、歯が歯槽から脱落する完全脱臼と、歯が歯槽にとどまっている不完全脱臼とがあります。
いずれも歯槽骨が大きな損傷を受けていない限り、もとの位置に再植や整復が可能です。

こうした再植や整復には、歯根膜が大きな役割を担っています。

歯根膜とは、歯根の周りを覆う、再生力に富んだ細胞を多く含んだ非常に薄い膜です。
この歯根膜の働きによって、脱臼した歯も歯槽骨と元のようにくっつくことができるのです。

ただし、歯が完全脱臼した場合、再植が成功するか否かには重要な条件があります。

それは、”受傷から再植までの時間”と”脱臼した歯の保存状態”です。

再植できると考えられているのは、受傷後30分までとされています。
再植のカギとなる歯根膜の細胞が、30分間以上室温状態で置かれると90%以上が死んでしまうためです。

また、歯根膜細胞が死なないために重要なことは、脱落した歯を清潔で湿潤した状態に保っておくことです。
最も保存に適しているのは歯牙保存液ですが、学校で受傷した場合なら保健室に置いてあるでしょうが、それ以外の場所ではまず手元に無いでしょう。
そこで身近なものでオススメなのが牛乳です。
牛乳は体の組織液と同等のpHを有しており、歯根膜細胞の保存に適しているという研究結果もあります。

まとめますと、もし外傷で歯が抜け落ちてしまったら、歯牙保存液か牛乳につけて速やかに歯科医院に持って来て頂くことをお勧めします。
地面に落ちたからと水道水で丁寧に洗って持ってこられる方がいらっしゃいますが、水道水ではpHが異なるため歯根膜細胞が傷みやすく再埴の成功率が下がってしまいます。
また、脱臼後数時間たってカピカピに乾いた状態の歯を持ってこられても、再植することはできません。

ちなみに、私も外傷による完全脱臼と再植の経験があります。
歯科学生時代、野球のバッティング練習中に自打球を口に受けてしまったのです。
受傷後、多数の前歯が不完全脱臼でグラグラする中、一本だけ口の中で完全に抜け落ちているのを自覚しました。
幸い、歯科の勉強をしており脱臼時の対応については知っていたのですが、グラウンドで練習中だったため、もちろん歯牙保存液や牛乳など手元にありません。
歯根膜を絶対に乾燥させてはならないので、血まみれになった口の中に脱臼した歯を含んだまま、近くで開業されていた野球部OBの先生のところに連れて行ってもらいました。
歯科医院では、レントゲン写真撮影を行い歯槽骨の骨折の有無を確認した後、不完全脱臼歯の整復と完全脱臼した歯の再植をして頂きました。
当時、矯正治療中だったため、「歯牙と歯槽骨との付着が緩んでいて脱臼しやすかったことが、逆に衝撃を和らげくれて歯牙の破折を回避できたのではないか」「矯正用のワイヤーで歯が繋がっていたから完全脱臼が一本で済んだのではないか」と先生には言われました。
再植した下顎の前歯は神経こそ取ることにはなりましたが、矯正歯科の先生に矯正治療もし直して頂き、10年以上経った今も元気に保存できています。

身をもって厚さ0.2mmの歯根膜の力を実感するとともに、私の歯を救ってくれた先生方のように患者さんの役に立てる歯科医師になりたいと思えた経験でした。
お口の外傷は身近に起こる事故なので、対応を知って頂く一助になれば幸いです。

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市川雄一

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