歯科医院に初めて来院される患者さんのお困りごとは様々です。
一番のお困りごとを主訴と言いますが、まずは主訴の改善が最優先となります。
小さな虫歯の治療など、即日で解決可能な主訴もありますが、治療法の選択肢が複数あるケースや、主訴以外にも治療が必要な歯が見つかるケースが多いです。

そこで重要になるのが”治療計画”です。

治療計画が不十分だと、治療工程に無駄が出て、時間も費用もかかってしまい、良好な治療結果が得られないことにも繋がります。
治療が多数歯に及ぶケースでは、患者さんと治療計画を共有し、同じゴールに向かって進んでいくことが重要になってきます。

一本の歯の治療からお口全体の治療まで、治療計画を立てる必要があります。
前述した小さな虫歯の治療でも、歯科医師は「どの器具や材料を用いて？」「どの手順で？」「治療後のケアは？」といった治療計画を頭の中で立てています。
局所の単純なケースでは、その場で治療計画の立案ができ、簡単な説明でも患者さんに理解して頂きやすいです。
しかし、主訴の改善に複雑な手技が必要なケースや、多数歯にわたる治療が必要なケースでは、治療計画の立案と患者さんへの説明に時間を要します。

そして、そのような治療計画の立案には、診断のための資料採りが重要です。
例えば、「患者情報の問診（社会的な背景・全身疾患の有無・服薬等）」「レントゲン写真」「口腔内写真・顔貌写真」「歯列模型」「歯周ポケットの測定値」「歯の動揺度」などがあります。
こうした資料をもとに疾患の原因を考察し、治療方法の選択を行います。
また、こうした資料を視覚的に用いることで、患者さんへもより解りやすく説明することができます。

治療計画は様々な治療オプションを組み合わせて決めていくので、何通りも考えられます。
歯の欠損に対する治療オプションで言えば、大きく分けて「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」がありますし、矯正を用いる場合もあるでしょう。
こうした色々な選択肢を組み合わせて計画を立てるので、治療計画は理想的なプランから妥協的なプランまで、何通りも立てることができるのです。
ただし実際には、患者さん側の条件と術者側の条件によってある程度しぼられてきます。
患者さん側の条件としては、「全身の状態」「お口の状態（歯周病・虫歯・歯並び等の状態）」「通院期間や回数」「経済面」「見た目を重視するのか・機能を重視するのか、などの価値観」等を踏まえた計画になります。
術者側の条件としては、術者の診療における知識や経験値、施術可能な治療オプションによって提供できる治療計画が変わってきます。
インプラントに関して言えば、
・まったくインプラントを扱わない
・既存の歯槽骨に埋め込むスタンダードなインプラントであれば施術可能
・既存の歯槽骨が不足しているケースでも、骨造成や上顎洞挙上術を併用してのインプラントが可能
など、歯科医師によって技量や考え方が異なり、提供できる治療プランにも差が出てきます。

歯科医師によっては、「自分より専門性が高く技術的に上手な先生を自院に呼んで診てもらった方が良いだろう」といった考え方の先生もおられます。
仰るとおりかもしれませんが、私はどちらかと言うと「せっかく自院を選んで来て下さった患者さんには、できるだけ自分の知識や技術を使ってお役立ちしたい」
と考えています。
そのため、治療プランも出来るだけ選択肢も多く、もちろん質の高いものを提供したいと思い、日々研鑽を積んでおります。

先日、所属させて頂いているJIADS（ジアズ）の勉強会で症例の相談をする機会を頂きました。
臨床的に実績が素晴らしく、全国的に著名な先生方に治療の相談をし、アドバイスが頂ける非常に貴重な機会です。

多数の奥歯を欠損し、お口全体的に治療が必要な患者さんがおられ、その治療計画に悩んでおりました。
症例相談では、私が気付きもしなかった着眼点で病態の原因を考察され、その改善方法も的確にアドバイス下さいました。
また、経験豊富な先生方の間でも異なる治療計画が複数挙げられて、そのメリット・デメリットについて熱い議論が交わされました。
もし、私の限られた知識と経験の中だけで考えていたら立てられなかった治療計画や、見落としていた問題点があり、非常に勉強になりました。
加えて、治療計画を立てるための知識や診断力と、治療計画を実践する技術の両面を高めていく大切さを改めて実感しました。

もちろん、最終的にどの治療計画を選択するかは患者さんご自身です。
長年、勤務医としてお世話になった西尾歯科では”歯科医療を通して患者さんを笑顔にする”という理念を基にご指導頂いてきました。
患者さんの病状とご希望を踏まえた上で、しっかりと相談し、その方にとって最善の治療計画と治療を提供し、笑顔になって頂きたいと考えています。

市川歯科医院
市川雄一

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